« 【第17回】補正予算執行停止 | トップページ | 【第19回】子供手当と扶養控除廃止(1) »

2009年8月 1日 (土曜日)

【第18回】随意契約4兆2000億円?

【第18回】随意契約4兆2000億円?
民主党マニュフェストより
【政策各論】①無駄遣い-国が行う契約を適正化する
<政策目的>
『政策コスト、調達コストの引き下げで税金の無駄遣いを根絶する。
政府調達をオープンにして、多くの国民が参加できるようにする。』
<具体策>
『公務員OBを官製談合防止法の適用対象にする。
随意契約、指名競争入札を実施する場合には、徹底的な情報公開を義務づける。
契約の事後的検討と是正措置を担う「政府調達監視等委員会」を設置する』

ちなみに、鳩山代表は麻生総理との党首討論において、
「随意契約が4兆2000億円以上ある。これこそ無駄遣いを削減できる」
と政府批判。マスコミも当然その尻馬に乗りました。
しかし、その実体は? というのが今日の論点。

さて、本題に入る前に、簡単に物品購入時の契約形態の分類を解説しましょう。
随意契約  :品目を購入する際に特定の業者と行う契約
指名競争入札:指名した業者の中で原則最低落札価格を示した業者を落札者とする契約
一般競争入札:誰でも入札に参加でき、最低落札価格を示した業者を落札者とする契約
こう解説すると誰でも「全部一般競争入札にすればいいじゃない!」と思うでしょう。
実際自分も何も知らない学生時代ならそう考えたでしょう。
ですが、実際に専門の現場で働いていると「なんでもかんでも一般競争入札にすればいいってもんじゃないだろう!」ということになります。

では、自分にとって身近な医療分野を例にとって解説しましょう。
病院の調達部門は、何億円クラスの医療機器からボールペンの一本まで購入しています。
まずは高額の方から取り上げると、高額の高度医療機器に関しては殆ど全て指名競争入札で行われます。
一般競争入札にしない理由は主に二つ。
一つはそもそも高額医療機器を取り扱っている業者が極端に少ないこと、
もう一つは「訳の分からない卸業者」に入れて、その機器が不良だった場合の担保が取れないということ。
生命を扱う機器です。納入機器が不良品で、患者に不慮の事故が起こった場合、責任の取れる業者以外は怖くて、取り扱いを任せられません。
現実には製造メーカーは信用できない業者に機器を卸したりしないのですが「潰れた病院の機器を安く買い叩いて卸問屋があるらしい」という噂は聞いたことがありますし。

それと、指名競争入札にした場合でも落札率が高いこと(予定金額に近いと云うこと)が党首討論で批判されていましたが、これはそもそも「前後関係」が違うのです。
医療機器の様な高額な品目に関しては、当然何年にもわたっての購入計画があります。
で、毎年院内で委員会が設置され検討する――ぶっちゃけ予算の分捕りあい――わけですが、この際に参考にするのが「仮見積」です。
この手の商品には定価などあってないようなものですし、先生方としては物が早く欲しい。
事務方としては予算が限られているし、出来るだけ正確に予算を見積もりたいけれど、工事等と違って積算のしようがない。
ということで、業者から「仮見積」を取っているのです。
しかもこの仮見積は「その分野に詳しい業者」つまり入札で勝つことが経験則上高いと思われる業者にお願いしているので、当然実際の落札金額に近い数字になるのです。
事務方としては「仮見積額通りだと、コレとコレとコレとコレまでは買えるな、よし」という具合で予算を作っているわけであり、実際の落札金額が更に下がれば儲けもの、くらいにしか捉えていません(実際専門性が強すぎて値引には限度がある)。
当たり前の話ですが、発注する事務方には「業者を優遇しよう」などという発想は存在しません。
年々削減される予算の中、現場に出来るだけ物が行き渡るように購入する機器を組み合わせる、としか思っていません。

では次に、ポールペン一本などの低額の方を取り上げましょう。
これは殆ど随意契約で行われていますが、厳密に言うと随意契約でも二種類あるのです。
一つは最初から特定の業者にお願いする場合、
もう一つはその物品を取り扱っている病院出入り業者各社に各々見積を持ち寄って貰い、最低価格を示した業者から購入する場合。
後者に関しては、実質指名競争入札とやっていることは変わらず、違う点があるとすれば、指名通知書や入札書式、改札手続など、発注側にとっても業者側にとっても面倒臭い手間を省いただけです。
実際うちの病院も日常一般的に使う消耗品に関しては、20社ほどを一年に一度呼んで後者の随意契約を行い、最低価格を示した業者と契約しています。
つまり「随意契約」と云うと聞こえが悪いですが、実際には各業者間で競争させている例も――というか普通の官公庁系だとこれが普通――あるわけです。

もっとも「全て入札でなければいけない!」との「県民の当然の声」を受けた某県庁もあるわけですが、当初の契約品に含まれていないボールペン一本を買うのに――冗談ではなく本当に――入札しなければいけないそうで。
それに伴う職員のコスト、並びにそんな「酔狂」に付き合わされる納入業者側(ボールペン一本の入札のために入札書類を取りに来て、指定日に入札会場に赴き、入札に参加する)のコストを考えると、頭が痛くなりそうなお話ですが。

で、話が随分逸れましたが、ようやく本題に戻って。
鳩山代表は党首討論で「随意契約が4兆2000億円以上ある」と主張しました。
ですが、実は当の民主党公式サイトの、長妻昭議員の資料には2兆8068億円と書いてあるのです(参考資料の2頁目。PDF注意)。 
どちらを信用したらよいのですかねぇ。
まさか党首討論で「嘘」なんて云わないと思いますし、
マスコミもあれほどその数字を出して政府を攻撃したのですから。

とりあえず話が進まないので、参考資料を元に進めますが、2兆8068億円のうち、半分以上の1兆4950億円は防衛関連予算なのです。
何故前半で医療の話の例を出したかと云えば、医療と防衛は「専門性」というところで似た側面があるからでして。
北欧の国のように、輸出もバンバンするほど兵器産業が盛んな国はいいです。
けれど、日本は原則として武器は輸入するか自前調達のみ。
入札しようにも、そもそも入札参加可能業者そのものが少ない上に、定価もなく、そもそも値段の安い高いだけで装備を決められるわけもありません(但し、以上の背景があるから守屋次官のような存在が出て来るわけで、これは当然改善しなければなりませんが)。
民主党は諸外国からも入札参加業者を増やし、防衛費をガラス張りにしたいのでしょうか? きっと諸外国(特に特定アジアの国々)は泣いて喜ぶと思いますけれど。

本日は随分話が長くなりましたが、今から断言しておきます。
2兆8068億円の随意契約を全面的に見直したところで、対象となった品目の特殊性が随意契約となっているのが専らの理由ですから、劇的な削減など絶対に無理です。
5%落ちれば凄い成果ですが、恐らくその影にある筈の人件費の増加と危機コストの増大は考慮されないでしょう。
どうにも民主党にせよ、マスコミにせよ、ネットの一部意見にせよ、公務員が余程無能で、余程税金を無駄遣いしていると信じ込んでいるようですが。
彼らは「理論通りに行かない・いっていない=官僚が悪いからだ」という、明らかな悪意に基づくロジック以外は信じない「官僚悪人教」の信者じゃないかと思う今日この頃です。
(続く)

« 【第17回】補正予算執行停止 | トップページ | 【第19回】子供手当と扶養控除廃止(1) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/94513/45804499

この記事へのトラックバック一覧です: 【第18回】随意契約4兆2000億円?:

« 【第17回】補正予算執行停止 | トップページ | 【第19回】子供手当と扶養控除廃止(1) »